紅葉とは?
手のひらの形をした葉を真っ赤に染める姿は、日本の秋の風物詩
DATA
「モミジ(紅葉・椛・英名 Autumnal Leaves)」は秋に紅葉する様々な木を総称する言葉だが、主に「カエデ(楓・槭・槭樹・学名 Acer・英名 Maple Tree)」のことで、更に言えばカエデの中でも「イロハモミジ(いろは紅葉)」のことを指す。
学名は「Acer Palmatum」、英名は「Japanese Maple」。
カエデ科(ムクロジ科)カエデ属の落葉高木。
花は4月~5月にかけて咲くが、風媒花(ふうばいか・風が花粉を運ぶので鳥や昆虫を呼び寄せる必要がない)のため花びらも小さく目立たない。
観賞されるのは葉で、秋の紅葉が美しいことで知られる、また新緑の時期の青もみじも見逃せない。
葉は3~7cmぐらいの大きさで掌(てのひら)状に切れ込んだ葉の形が特徴的で、緑色から黄褐色を経て赤色に紅葉する。
カエデ属は世界に約160種あり北半球の温帯に広く分布、日本では福島県以南の山野に自生し20種以上の野生種があるほか、古くから庭園などで栽培され園芸品種も多い。
イロハモミジは日本を中心に中国・台湾・朝鮮半島に分布し、日本では本州以南の平地から標高1000mまでの低山に自生。
高さは約15m。
名前の由来
「カエデ」は葉の形がカエルの手の形に似ていることから「蛙手(かへるて)」と呼ばれ、それが「かへんで」「かへで」、そして「かえで」に変わった。
「楓」は元々はマンサク科のフウを指す漢字だったが、葉の形が似ていることから平安中期頃より慣用でカエデと詠まれるようになったという。
ちなみに奈良時代の「万葉集」では蛙の意味で「蝦」「蝦手」と表記され、「楓」を「かつら」というまったく別の植物を指し、また中国ではカエデは「槭」と表記される。
「モミジ」は紅葉するという意味の動詞「紅葉づ(もみず)」の名詞化。
また「イロハモミジ」の名は掌(てのひら)状に5~7裂する葉の先を「いろはにほへと」と数えたため。
学名の「Acer」はラテン語で裂けるという意味、「Palmatum」は掌(てのひら)状のという意味。
歴史
日本にも古くより自生
古くより北半球の温帯に広く分布し化石も多く発見されている。このうちヨーロッパや北米では氷河時代の厳しい気候の影響で多くが絶滅し品種も少ないが、影響の少なかったアジア地域ではたくさんの品種が残されたという。
日本もカエデの野生種の中心地の一つで、奈良時代には既に栽培されていたことが「万葉集」で大伴田村大嬢(おほともの たむらの おほいらつめ)の詠んだ「わが屋戸(やど)に 黄変(もみ)つ鶏冠木(かへるで)見るごとに 妹(いも)を懸けつつ 恋ひぬ日はなし」の短歌からも窺い知れる。
江戸時代には品種改良が進み、300種もの園芸品種が生み出されたという。
海外では木材のほか食用のメープルシロップや薬用としての利用にとどまっていたが、明治以後に日本のカエデが紹介されるとガーデニング素材として人気を博した。また独自の品種も作られて日本に「西洋カエデ」として逆輸入もされている。
文化
古くより和歌や様々な芸術の題材となっており、特に「秋の夕日に 照る山もみじ 濃いも薄いも 数ある中に」で知られる童謡「もみじ」は有名。1911年(明治44年)の発表で作詞・高野辰之、作曲・岡野貞一。
広島県厳島(宮島)の名物として知られる「もみじ饅頭(まんじゅう)」は明治後期に宮島の和菓子職人により考案され、宮島の紅葉の名所「紅葉谷(もみじだに)」にちなんで名付けられたといわれている。
利用・用途
観賞用
鮮やかな紅葉で古くから親しまれ、庭木、盆栽として利用される。
秋の紅葉見物は平安期頃にはじまったといわれていて、現代でも「紅葉狩り(もみじがり)」として、春の桜見物とともに人気を集めている。
有名な観光名所としては京都の寺社のほか、栃木県の日光や青森県の奥入瀬が知られており、毎年多くの観光客で賑わう。
食用
カナダの国旗に描かれていることで知られるサトウカエデ(砂糖楓)は樹液が甘く、煮詰めて「メープルシロップ」が作られる。
日本では愛知県の香嵐渓や大阪府箕面市などで食用に栽培されたものが「もみじの天ぷら」として食用されている。
薬用
「メグスリノキ(目薬木)」は別名「チョウジャノキ(長者の木)」とも呼ばれ、視神経を活発化させる苦味成分ロドンデールを多く含み、古来より漢方薬として利用されている。
木材
メープル材と呼ばれる木材として建築や家具、楽器や運動器具(スキー板やラケットの枠、野球のバット)などに利用され、硬さによりハードとソフトがある。
日本のイタヤカエデ(板屋楓)や北米のサトウカエデ(砂糖楓)、ヨーロッパのセイヨウカジカエデなどがよく知られている。
カエデの主な仲間
「サトウカエデ(砂糖楓)」
学名は「Acer Saccharum」、英名は「Sugar Maple」。
カエデ科(ムクロジ科)カエデ属の落葉高木。
葉は3~5裂し、長さ9~15cmと他のカエデと比べるとかなり大きい。
北米原産でカナダのケベック州やアメリカ東部に多く自生、日本には明治時代に伝わり、主に街路樹として利用されている。
高さは30~40mにまで成長。
特にカナダでは国旗やメイプルリーフ金貨などの硬貨などにもデザインされているなど国を代表する木となっている。
樹液を煮詰めたものは「メープルシロップ」として食用され、また樹木はメープル材と呼ばれる木材として建築や家具、楽器や運動器具などに用いられる。
「メグスリノキ(目薬木)」
学名は「Acer Maximowiczianum」、英名は「Nikko Maple」、「長者の木」「千里眼の木」の別名。
カエデ科(ムクロジ科)カエデ属の落葉高木。
葉は長さ5~13cmぐらい、3枚の小さい葉で構成。
日本国内のみに分布、特に標高700mぐらいの低山に多く自生。
高さは10m程度まで成長。
名前は戦国時代頃に樹皮や幹・葉を煎じた汁が目薬として利用されたことに由来。
視神経を活発化させる苦味成分ロドンデールを多く含むことから、現在もメグスリノキエキスが眼病を予防する効果が期待できるとして商品化もされている。
「ハウチワカエデ(羽団扇楓)」
学名は「Acer Japonicum」、英名は「Fullmoon maple」「Downy Japanese Maple」、「メイゲツカエデ(名月楓)」の別名。
カエデ科(ムクロジ科)カエデ属の落葉高木。
葉は9~11裂し、長さ4.5~10cmほどで切れ込みは浅め。
日本固有種で北海道から本州にかけての低山地帯の谷間などに多く自生し、北海道では庭園樹としてよく用いられている。
高さは5~15m。
名前の由来は葉のふっくらとした形を天狗が持っていたといわれる羽団扇(はうちわ)になぞらえたもの。
別名の「名月楓」は秋の名月の下で紅葉が見られるという意味で、京都では観月の名所・大覚寺でも見られる。
「イタヤカエデ(板屋楓)」
学名は「Acer Pictum」、英名は「Painted Maple」、「トキワカエデ(常磐楓)」の別名。
カエデ科(ムクロジ科)カエデ属の落葉高木。
葉は長さ5~10cmぐらいで切れ込みは浅め、秋に黄葉する。
山地に自生するほか、庭木としても用いられる。
高さは約20m。
木材として建築や器具・楽器などで用いられるほか、サトウカエデ(砂糖楓)にくらべて含有糖分は低いがメープルシュガーを作ることもできる。
名前の由来は雨宿りができるほど葉が良く茂り、まるで屋根のようなところから。
「トウカエデ(唐楓)」
学名は「Acer Buergerianum」、英名は「Trident Maple」、「サンカクカエデ(三角楓)」の別名。
カエデ科(ムクロジ科)カエデ属の落葉高木。
葉は3裂し長さ4~8cmほどで切り込みは浅い、秋に黄色から赤に紅葉する。
樹皮が縦に割れて剥がれやすいのが大きな特徴。
名前のとおり中国原産(南東部)で、日本には江戸中期・8代将軍徳川吉宗の治世である享保年間に伝来。
大気汚染や寒暖差などにも強く紅葉することから、庭園樹のほか街路樹としてもよく用いられる。
園芸種に葉が七色に変化する「花散里(メープルレインボー)」がある。
高さは10~20m。
三角楓の別名は3裂する葉の形を意味する英語名「Trident Maple」から。
よく似た植物
「カエデ」と「モミジ」の違い
植物分類上は同義語であり、英語ではどちらも「Maple(メープル)」と呼ばれている。
園芸上では習慣としてイロハモミジの系統をモミジと呼びそれ以外をカエデと呼んだり、葉の切れ込みが深いものをモミジ、浅いものをカエデと呼んだりする場合もある。
カエデ以外に紅葉する主な植物
よく知られているものとしてはバラ科の「サクラ(桜)」やツツジ科の「ツツジ(躑躅)」も紅葉する。ツツジでは「ドウダンツツジ(灯台躑躅・満天星)」が有名。
またブドウ科の植物も紅葉することで知られ、「ブドウ(葡萄)」のほか、「ツタ(蔦)」は「ツタモミジ(蔦紅葉)」と呼ばれ、歌舞伎狂言の演目に「蔦紅葉宇都谷峠」があり、松尾芭蕉「蔦の葉はむかしめきたる紅葉かな」、小林一茶「蔦紅葉朝から暮るるそぶりなり」など多くの俳人たちに詠まれている。
その他には
ニシキギ科の「ニシキギ(錦木)」
ウルシ科の「ウルシ(漆)」「ハゼ(櫨)」
バラ科の「ナナカマド(七竈)」「オオカナメモチ(大要黐)」
スイカズラ科の「スイカズラ(吸葛)」
ウコギ科の「タラノキ(楤木)」
ミズキ科の「ハナミズキ(花水木)」
「草紅葉(くさもみじ)」
カエデのほかにも秋に紅葉する草や低木があり、それらを総称して「草紅葉(くさもみじ)」と呼ぶ。
京都では鴨川沿いの「ユキヤナギ(雪柳)」の紅葉は有名。
「黄葉(おうよう)」と「褐葉(かつよう)」
赤く色づく紅葉に対し、黄色く色づくものを「黄葉(おうよう・こうよう)」、褐色に色づくものを「褐葉(かつよう)」と呼び区別することがあるが、厳密な区別は難しくまとめて「紅葉」と呼ぶことが多い。
黄葉の代表としては
「イチョウ(銀杏)」
褐葉の代表としては
「ブナ(橅)」「スギ(杉)」「メタセコイア」「ケヤキ(欅)」
豆知識
紅葉のメカニズム
葉が普段は緑色に見えるのは緑色の色素である「クロロフィル(Chlorophyll))」が含まれているからで、これが気温が低下し日照時間が短くなると分解され、元々葉にあった黄色い色素「カロテノイド(Carotenoid)」が姿を現す、これがイチョウなどによく見られる「黄葉」である。
同時に葉の付け根に「離層」という水分を通しにくい壁のような特殊な組織ができることで葉の養分が枝に流れなくなり、葉に残った糖類やアミノ酸が光合成に利用されて、その結果新たな色素が生み出される。この時生まれるのが赤い色素「アントシアン(Anthocyan)」で、この赤い色素が原因で葉の色が赤く見えるようになる。
美しい紅葉の条件 - 寒暖差・斜面・きれいな空気と水分
上記のメカニズムから葉に残った糖分が多いほど光合成が進み葉は真っ赤に色づく。
また紅葉が色づきはじめるのに必要な気温は、一日の最低気温が8度以下、さらに5度を下回ると一気に進むとされているが、この時に昼夜の気温の差が大きくなると、より一層美しく真っ赤に紅葉するという。
その他にも光合成が行いやすいという理由から平地より斜面、また空気が汚れておらず、適度な水分があると良いとされており、これらの条件を満たす高原や渓谷、山間にある湖沼などできれいな紅葉が見られる。
紅葉前線
紅葉は始まってから3週間から1ヶ月程度楽しめるが、開始時期は気温に大きく左右されるため、開始時期は各地によって様々、そのため見頃の推移は気象庁や報道関係により細かく伝えられるが、これらは春の桜前線に対し「紅葉前線」と呼ばれる。
桜前線が南の方から始まるのに対し、紅葉は9月に北海道の大雪山を皮切りに北から南へと南下していく。朝晩の冷え込みが大きい山間・内陸部を除き、東北地方までは10月、関東から九州にかけては11月から12月の初旬までが一般的。
日本紅葉の名所100選
約700か所の紅葉スポットを紹介する日本観光協会のデータを元に2010年(平成22年)に主婦の友社が選定。
このうち京都から選ばれているのは嵐山、保津峡、大原の3カ所。