京都市東山区粟田口(あわたぐち)三条坊町にある、比叡山延暦寺を総本山とする天台宗の寺院。
古くより皇室と関わり深く、皇室や摂関家の子弟が入寺する格式の高い「門跡寺院」で、梶井(三千院)・妙法院とともに「天台宗三門跡」の一つ。
現在も妙法院・三千院・曼殊院・毘沙門堂とともに「天台宗五門跡」の一つにも数えられ、粟田宮(粟田御所)、粟田口御所、東山御所とも呼ばれている由緒ある寺院です。
開基は最澄で、本尊は大日如来の仏頂尊である熾盛光如来(しじょうこうにょらい)曼荼羅。
他の門跡寺院同様に最澄以来の比叡山の住坊である「青蓮坊」を発祥とし、元々は785年(延暦4年)に伝教大師最澄が、比叡山上に延暦寺を開いた時の僧坊の一つでした。
平安末期の1144年(天養元年)、比叡山東塔南谷にあった青蓮坊が、藤原師実(もろざね)の子で天台座主第12代・行玄(ぎょうげん)の時に「青蓮院」となったのがはじまり。
そして鳥羽上皇の皇后・美福門院(びふくもんいん)の祈願所として「青蓮院」の院号を授けられ、東塔南谷の本坊とされました。
その後1153年(仁平3年)に鳥羽法皇が比叡山の本坊の他に京都での里坊として三条白川に白川坊舎を建て、第7皇子・覚快法親王(かくかい)が入寺。
以来代々皇族や摂関家の子弟が入寺する門跡寺院となり、多くの天台座主を当院から輩出するなどして栄えました。
とりわけ平安末期から鎌倉初期の第62代天台座主も務めた第3代門主・慈円(じえん)の時代に宗風は大いに振興。
「愚管抄」で有名な慈円は歌道にも優れ、密教にも通じて、弟子として法然(ほうねん)、親鸞(しんらん)を輩出していることから、浄土宗や浄土真宗の聖地にもなっています。
特に親鸞はこの院で出家得度していることから本願寺との関係が密となり、明治期まで歴代の本願寺法主(ほっす)は青蓮院で得度するのが慣例だったといいます。
室町時代には足利幕府との関係も深まり、足利義満の子・義円が門跡となった後、還俗して6代将軍・足利義教(よしのり)になったことは有名です。
江戸後期には後桜町上皇(ごさくらまち上皇)の仮御所となったことから「粟田御所(あわたごしょ)」の別称で呼ばれるように。
これは1788年(天明8年)1月30日の「天明の大火」によって御所が炎上し、仮御所として上皇が避難した際、庭内の「好文亭」が御学問所として用いられたためでした。
殿舎の中心は初めは白川坊にあり、後に吉水坊に移り、現在地は十楽院のあった場所とされています。
堂宇はしばしば兵火や火災に遭っており、近年では1893年(明治26年)に本堂をはじめほとんどが焼失。
1895年、1909年に宸殿(しんでん)、対面所、小御所、玄関などが再建され、本堂(熾盛光堂)は清水竹林院(きよみずちくりんいん)の建物が移築されています。
境内は宸殿、小御所、熾盛光堂等の建物と池泉回遊式の庭園などで構成。
境内の殿舎はすべて渡り廊下でつながっていて、熾盛光如来曼荼羅が安置されている本堂、親鸞聖人が得度を受けたといわれる寝殿などがあります。
庭園には名園が多く、
室町時代の伝・相阿弥(そうあみ)作で粟田山(華頂山?)を借景にその山裾を利用した池泉回遊式庭園「築山泉水庭(林泉)」は史跡・名勝
江戸初期の伝・小堀遠州(こぼりえんしゅう)作の黒書院の庭「霧島(きりしま)の庭」
伝・大森有斐(ゆうひ)の作の「好文亭(こうぶんてい)前庭」
宸殿前の「苔の庭」などがあります。
寺宝も多く、「絹本著色不動明王二童子像」は日本三不動の一つ「青不動」として名高く、国宝に指定。
他にも国の重文として
「宸殿襖絵(ふすまえ)の金地著色浜松の図17面」(伝住吉具慶筆)
「紙本墨書御消息(ごしょうそこ)(後光厳院(ごこうごんいん)宸筆(しんぴつ))」
「紺地金泥大灌頂光明真言(だいかんじょうこうみょうしんごん)」(光格(こうかく)天皇宸筆)
などがあり、そのほか歴聖宸翰(しんかん)、狩野(かのう)派筆画、書跡、古什器(こじゅうき)など多岐に渡っています。
境内地全域約1万坪は「青蓮院旧仮御所」として国の史跡に指定。
また門前にそびえる「大楠」は親鸞聖人お手植えとされ、京都市の天然記念物にも指定され寺のシンボル的存在となっています。
その他にも東山山頂には飛地境内の「大日堂」と「将軍塚」があり、庭園や市街地の眺めもすばらしく夜景スポットにもなっています。
この点、2014年(平成26年)10月には、将軍塚に新たに移築再建の大護摩堂「青龍殿」と、新築で木造の「大舞台」が建立され、国宝の「青不動」が青龍殿の奥殿に安置されました(それまでは奈良国立博物館に寄託されていた)。
四季の草花が楽しめることでも有名で、5月の連休の頃になると小堀遠州による「霧島の庭」では霧島つつじが真っ赤に。
また秋は紅葉で華やかに彩られ、とりわけ華頂殿から眺める秋の庭園は実に見事です。
春と秋には境内全域をライトアップした特別拝観(夜間拝観)も行われ、宸殿前は青いライトで幻想的な雰囲気に包まれます。