「東福寺の伽藍面」と呼ばれる大伽藍を持つ紅葉の名所
臨済宗東福寺派大本山で京都五山四位。1236年摂政九條道家が創建、奈良東大寺、興福寺に比肩する寺院をと1字ずつ取って命名。
20万m2の敷地に国宝で現存最古の三門など七堂伽藍と25の塔頭を有する。
洗玉澗に架かる通天橋を中心に京都屈指の紅葉の名所で、東西南北に庭をめぐらした方丈の八相の庭も見所
東福寺のみどころ (Point in Check)
京都市東山区本町にある禅宗寺院で、臨済宗東福寺派の大本山。
鎌倉初期に時の摂政で鎌倉幕府第4代将軍・藤原頼経の父でもある九条道家により九条家の氏寺として創建。奈良の東大寺と興福寺を範とし、それぞれから一字ずつ取って「東福寺」と命名されました。
20万平方メートル以上といわれる広大な寺域に典型的な禅宗伽藍を有し、多くの塔頭寺院が立ち並ぶ壮観な姿は「東福の伽藍面(がらんづら)」と称されました。
惜しくも明治期に火災に遭い現在の本堂、方丈、庫裏などは明治以降の再建ですが、禅宗寺院最古の三門(国宝)をはじめ、月下門や仁王門、また浴室・東司(便所)、禅堂(いずれも重文)など室町時代の禅僧の生活を知る上で貴重な建築が現存しており、その多くは国宝や国の重要文化財に指定されています。
古来より京都屈指の紅葉の名所として知られ、境内の通天橋からの眺めは絶景。毎年秋には多くの参拝客や観光客で溢れ返ります。
また方丈庭園は重森三玲の初期の作品で、東西南北にそれぞれに枯山水の庭園をめぐらせ、苔と石の市松模様が印象的。サツキ刈り込みが見応えがあるほか、紅葉や新緑も楽しめます。
2014年(平成26年)6月には国の名勝に指定され、同年10月には「東福寺本坊庭園」として完成当時の姿が復元されました。
応仁の乱の戦火を免れた貴重な寺宝が数多く存在しており、絹本着色無準師範像(国宝)や宋版「太平御覧(ぎょらん)」103冊、宋刊本「義楚(ぎそ)」6帖(じょう)12冊、無準師範墨蹟(ぼくせき)、禅院額字・牌字(以上国宝)など鎌倉・室町期を中心に5000点を超える文化財を所蔵しています。
25を数える塔頭寺院にも多くの見どころがあり、現存最古の方丈建築で国宝の方丈を持つ龍吟庵や「虹の苔寺」と呼ばれ窓越しの紅葉も見事な光明院、雪舟の作と伝えられる鶴亀の庭の芬陀院(ぶんだいん)、桔梗と紅葉の名所として名高い天得院、九山鉢海の名園をもつ霊雲院などが知られています。
また東福寺からは歴代多くの名僧を輩出しており、「元亨釈書」の著者である虎関師錬や、室町時代に画僧として活躍しその後の仏画や水墨画に多大な影響を及ぼした吉山明兆などが著名です。
鎌倉初期に九條家の菩提寺として創建
浩基を東大に亜ぎ、盛業を興福に取る
元々東福寺の寺地には平安中期の924年(延長2年)に藤原忠平の建立した法性寺の巨大な伽藍があり、藤原氏の隆盛とともにその氏寺として繁栄しましたが、後に衰微。(その後再建され現在はJR・京阪東福寺駅近くに小さな寺院として存続)
その後鎌倉初期の1236年(嘉禎2年)、法性寺の跡地に鎌倉幕府第4代将軍・藤原頼経の父でもある摂政・九條道家が祖父・九條兼実の菩提寺の建立を発願。工事半ばの1243年(寛元元年)には宋から帰国した円爾(聖一国師)を開山に迎え、天台・真言・禅の三宗兼学とします。
七堂伽藍が完成し、19年の歳月をかけた大工事が完了したのは道家の没後3年経った1255年(建長7年)のことで、寺名は「浩基を東大に亜ぎ、盛業を興福に取る」と奈良で最大の寺院である東大寺および奈良で最も盛大を極めた興福寺に比肩する大寺院をと、ぞれぞれより「東」と「福」の字を一字ずつ取って「東福寺」と命名されました。
東福の伽藍面と呼ばれる壮大な伽藍に京都五山第四位の寺格
創建当時の仏殿には高さ15mの本尊・釈迦如来立像、左右には7.5mの観音・弥勒両菩薩像が安置され、「新大仏寺」の名で喧伝されたといいます。
また広い境内に三門、法堂、仏殿、方丈などの七堂伽藍や塔頭が並ぶ壮観な姿は「東福の伽藍面(がらんづら)」とも称されました。
室町時代には京都五山の第四位に列せられ栄えますが、その間1319年(元応元年)(本尊の釈迦像も焼失しのち14世紀半ばに再興)、1334年(建武元年)、1336年(延元元年・建武3年)と度重なる火災に遭遇しており、大部分を焼失するも直ちに復興。1346年(正平2年・貞和3年)には前の関白・一条経通(つねみち)により仏殿が再建され、完全な禅宗寺院としての寺観が整えられました。
度重なる焼失と再建
中世以降も足利義持、豊臣秀吉、徳川家康ら時の治世者の庇護を受けて諸堂が重修され、明治期に入るまで兵火を受けることなく堂塔伽藍が維持されてきましたが、明治期に入り1881年(明治14年)12月の大火で惜しくも仏殿・法堂・方丈・庫裡を焼失。
この時には14世紀に再興された本尊の釈迦像も再度焼失しており、火災の際に救い出されたものと推定されている長さ2mの巨大な「仏手」のみが現存しています。ちなみに現在の本尊は塔頭寺院となった万寿禅寺より移されたものです。
明治期の火災の後、1890年(明治23年)にまず方丈が、1910年(明治43年)には庫裡が再建され、本堂(仏殿兼法堂)は1917年(大正6年)より再建に着手し、1934年(昭和9年)4月に落成しています。
明治の廃仏毀釈で規模が縮小され、中古以来53院あった塔頭も合併し数こそ減少していますが、今なお25か寺の塔頭(山内寺院)を有し360余の末寺を統括する大寺院として法灯を灯しつづけています。
「通天橋」からの絶景で知られる京都屈指の紅葉の名所
東福寺は東山の永観堂と並ぶ京都でも随一の紅葉スポットとして知られており、毎年秋には全国からたくさんの観光客が訪れ長い行列ができます。
ちなみに昔は桜の名所でしたが、あまりにも桜が綺麗で修行の妨げになることから、全て伐採してしまったというエピソードは有名です。
境内には約2000本ものカエデが植えられていますが、中でも数十本ある「通天紅葉」は開山の円爾弁円が中国の宋から持ち帰ったと伝わる三つ葉楓で、葉先が3つに分かれて黄金色に色づくのが特徴。その珍しさから「秋のすゑ」「洛陽の奇観」として知られいます。
一番の見どころは東福寺の伽藍の中央を貫く渓谷・洗玉澗に架かる橋で、本堂と開山堂を結ぶ「通天橋」。
赤・オレンジ・黄・緑と色とりどりの紅葉を見下ろすことができる絶景スポットとして有名で、毎年長蛇の列ができるほど人気を集め、時代劇やCMなどのメディアでもよく登場するお馴染みの場所です。
他にも通天橋とともに東福寺三名橋の一つに数えられる「臥雲橋」から見上げる「通天橋」も見どころの一つ。
こちらは有料拝観エリアではない一般道に架かる橋ということもあって、紅葉の時期には大変な混雑となります。
例年の見頃は11月下~12月上旬ですが、立地条件の環境の関係から色づく時期が遅い事もあり、通天橋から眺める紅葉の景観は「秋の京都における最後の紅葉」として秋の名残りを惜しむ人々に愛されています。
東西南北に4つの庭がある国指定名勝「東福寺本坊庭園」
「東福寺本坊庭園」は大方丈にある枯山水の庭園で、昭和を代表する作庭家・重森三玲(しげもりみれい 1896-1975)により1939年(昭和14年)に造営されました。
広大な方丈の東西南北に四庭が配置されているのが非常に珍しく、2014年(平成26年)には国の名勝に指定されています。
以前は釈迦の生涯における8つの重要な出来事「八相成道(はっそうじょうどう)」が表現された「八相の庭」と呼ばれていましたが、名勝指定とともに名前が変更されました。
枯山水の石庭が印象的な南庭、井の字に刈り込んだサツキが美しい西庭、市松模様の敷石と丸刈りのサツキと背後の通天紅葉が美しい北庭、そして円柱の石で北斗七星を象った東庭と、いずれもが個性的で参拝者の目を楽しませてくれます。
現存最古最大の国宝「三門」とこれを支える「太閤柱」
東福寺の三門は室町初期の1405年(応永12年)に再建されたもので、現存する禅宗寺院の三門としては最古であり、1897年(明治30年)12月28日に国宝に指定されています。
正面2階の扁額「?雲閣(みょううんかく)」は室町幕府第4代将軍・足利義持の筆によるもので、また大屋根の四隅に見られる柱は豊臣秀吉による大修理の際に補足されたもので通称「太閤柱」と呼ばれています。
楼上からは洛南一帯を一望でき、涅槃会の行われる3月14~16日に公開されています。
大涅槃図が公開される「涅槃会」と本堂天井の「雲龍図」
「涅槃会」とは、仏教の開祖である釈迦の亡くなった命日である陰暦2月15日にその遺徳を偲んで行われる法要のことで、全国各地の寺院で行われています。
涅槃会の際には文字が読めない人々にも仏教の教えを説くことができるようにと、釈迦の入滅の姿を描いた「涅槃図」を掲げられるのが一般的。
この点東福寺の涅槃図は室町期の画家・吉山明兆の作で縦12m、横幅6mの大涅槃図で、「魔除けの猫」が描かれているのが珍しいといわれています。
ちなみに涅槃図ではあらゆる生きものが嘆き悲しむ場面が描かれますが、猫は描かれていない場合が多いといいます。
その理由としてはネズミが釈迦の使いとされその天敵であるからとか、ネズミが薬袋を取りに行ったのを邪魔したために釈迦が薬を飲めず亡くなったとか、あるいは猫のルーツは中東で釈迦入滅の時代にインドに存在していなかったなど諸説あるようです。
東福寺の涅槃会は毎年3/14~3/16に開催され、通常非公開の本堂にて大涅槃図が公開されます。
同時に本堂の天井の堂本印象筆の巨大な蒼龍図(雲龍図)を堂内から見ることができるほか、国宝三門や塔頭・龍吟庵の特別公開や方丈庭園で寺宝展も開催。
期間中は食べると無病息災で過ごせるという涅槃会定番のあられ菓子「花供御(はなくそ)」を販売するほか、東福寺未生流による献花展・呈茶、尺八献笛、甘酒の接待も行われます。