京都市上京区京都御苑内、京都御苑内の南側の間之町口および堺町御門そばにある九条池の畔に鎮座する神社で、宗像神社、白雲神社とともに京都御苑内にある3つの神社のうちの一社で、「池の弁財天」の別名で親しまれています。
平安後期に平家の棟梁・平清盛(たいらのきよもり 1118-81)が摂津国莵原郡兵庫津(現在の兵庫県神戸市兵庫区永沢町)に築島を造営した際、母・祇園女御(ぎおんにょうご)のために安芸国(広島県)の厳島神社の神を勧請して一社を設けて祀ったのがはじまりで、市杵島姫命・田心姫命・湍津姫命の「宗像三女神」に加え、故あって祇園女御も合わせて祀られたといいます。
その後、室町後期に第12代将軍・足利義晴(あしかがよしはる 1511-50)によって戦国大名・細川高国(ほそかわたかくに 1484-1531)の邸内に移された後、更に1771年(明和8年)に九条道前(くじょうみちさき 1746-70)が当地にあった九条家の邸宅内の拾翠池の中島に移しました。
そして移転後は九条家の鎮守社とされた一方で、古くより家業繁栄・家内安全の守護神として一般の人々からも深く崇敬されていたといいます。
この点、九条家は法性寺関白(ほっしょうじ かんぱく)と呼ばれた藤原北家嫡流の藤原忠通(ふじわらのただみち 1097-1164)の六男・九条兼実(くじょうかねざね 1149-1207)を祖とする公家の一つ。
中臣鎌足が「大化の改新」の功によって天智天皇から「藤原」の姓を賜って以降、藤原氏は「源平藤橘」と称される代表的な姓の一つとなり、奈良時代には南家・北家・式家・京家の四家に分かれ、平安時代には北家が皇室と姻戚関係を結んで摂関政治を行い、一大勢力を築きました。
そして平安時代までは本姓の「藤原」を称していましたが、分家も含めて藤原が増えすぎたこともあり、平安後期・鎌倉期以降は姓の藤原ではなく苗字に相当する家名を名乗るようになり、その多くは自分たちの屋敷のある京都の地名であったといいます。
九条家の場合は、藤原基経の創建といわれる京都の九条にあった「九条殿」をその邸宅としたことが家名の由来とされていて、近衛家、二条家、一条家、鷹司家とともに藤原氏嫡流で公家の家格の頂点に立つ5つの家である「五摂家」の一つとされ、この五摂家のみが摂政・関白や太政大臣に昇任でき、また五摂家の中から藤氏の長者も選出されたといいます。
有名な所としては鎌倉幕府4代将軍・藤原頼経の父で、東福寺の創建者でもある第3代・九条道家(くじょうみちいえ 1193-1252)や、幕末に関白となると公武合体政策を進め、皇女和宮の降嫁を積極的に推進し、娘・夙子(あさこ)(英照皇太后)が孝明天皇の妃に、孫の節子(さだこ)(貞明皇后)が大正天皇の妃となったことで知られる第29代・九条尚忠(くじょうひさただ 1798-1871)がいます。
南北朝時代に天皇の居所である御所が平安京内裏の荒廃以降に仮の住居として用いられた里内裏の一つである土御門東洞院殿、現在の京都御所に定まると、織田・豊臣政権・徳川の時代にかけて内裏の周辺に宮家や公家を集めて居住させる移住計画が進められ、御所の周辺には近衛家などの邸宅が次々と移転され、幕末まで大小140の屋敷が立ち並ぶ「公家町」が形成されていましたが、その中でも九条家の邸宅は現在の京都御苑の南西部に位置し、面積1万坪、建坪4000坪と公家屋敷の中では最大級の面積を誇っていたといいます。
しかし1869年(明治2年)に明治天皇の東京遷幸が挙行されると、九条家も多くの公家たちとともに東京に移住し、母屋などの主要な建物は東京の九条邸に移築され、その一部の建造物は近年になって東京国立博物館に寄贈され「九条館」と命名されて公開されているといいます。
一方九条邸があった旧地には庭園部分のみが整備されて残っており、庭園の中心にある「九条池」とその傍らの茶室「拾翠亭(しゅうすいてい)」、そして九条邸の鎮守であった当社が遺構として残るのみとなっています。
このうち「拾翠亭」は江戸後期に九条邸の別邸として建てられた茶室で、遊び心にあふれた建築と言われて現在でもお茶会などに利用されているほか、年末年始を除く木金土の週3日間一般公開されています。
また「九条池」は1778年(安永7年)頃に東山を借景として、その拾翠亭からの眺めを第一に造営されたものだといわれていて、樹木が生い茂るなど当時とは景観が変わってはいるものの、京都の中心部とは思えないゆったりとした雰囲気を味わうことができます。
その他にも社前の石鳥居は笠木を唐破風形にした珍しい形で、北野天満宮境内の伴氏社の貫が柱を貫通していない中山鳥居と、蚕の社(木嶋神社)の三柱鳥居とともに「京都三珍鳥居」の一つとして有名で、1938年(昭和13年)には文部省により国外への古美術品の流出防止を主目的として制定された有形文化財である「重要美術品」にも認定されいます。