京都府京都市伏見区南浜町、酒どころの京都・伏見を代表し、白鶴酒造(兵庫県神戸市東灘区)や宝酒造(京都市)と並ぶ業界大手の酒造会社「月桂冠株式会社」の博物館。
創業は他業界と比べても非常に古く、江戸初期の1637年(寛永14年)、大倉治右衛門により「笠置屋」の屋号で酒屋として創業したのがはじまり。
創業時は酒名は「玉の泉」と称していましたが、1905年(明治38年)に勝利と栄光のシンボルである「月桂冠」を酒銘として商標登録。
「全国新酒鑑評会」で金賞を20年以上にわたって連続受賞するなど多くの受賞歴を記録し、普通酒「つき」のほか、吟醸酒、純米酒、本醸造酒など豊富なラインナップを揃え、2016年3月期の売上高は単体で282億円、グループ全体で400億円弱という日本酒のトップメーカーの一つです。
月桂冠創業の地は伏見の京阪中書島駅の北側、伏見城の外堀であった濠川の北岸にあり、史料館「月桂冠大倉記念館」のほか、「月桂冠内蔵酒造場」や近年建てられた「月桂冠本社」、江戸後期に創業の地に建てられた酒蔵兼居宅「大倉家本宅」、そして大正期の建造物で、長年にわたって月桂冠本店として使用され現在は喫茶・土産販売・観光案内所となっている「伏見夢百衆(月桂冠旧本店)」など、一帯では月桂冠に関連する江戸・明治・大正・昭和といった各時代の建物を目にすることができます。
中でも十石船の船着場にほど近い、濠川沿いから眺めた柳並木に白壁土蔵の内蔵は、酒どころ伏見を象徴する酒蔵の風景としてマスコミや雑誌などにも採り上げられるなど、多くの人々に親しまれていて、これを受けて1997年(平成9年)には付近一帯が京都市の「重要界隈景観整備地域」に指定され土色に近い色彩のカラー舗装やレトロ調の電灯の設置、電柱の地中化などの景観に配慮した整備が進められたほか、2007年(平成19年)には月桂冠旧本社・内蔵酒造場・月桂冠昭和蔵・旧大倉酒造研究所・月桂冠大倉記念館・伏見の酒造用具の6件が、経済産業省より「近代化産業遺産」として選定され、景観の保護が図られています。
「月桂冠大倉記念館」はその近代化産業遺産の一つとして指定されている建物で、1909年(明治42年)に大倉記念館の元となる酒蔵が建造された後、1982年(昭和57年)に伏見の酒造りや日本酒の歴史・文化を学べる史料館として開設されました。
当初は会社来訪者への見学の形で公開され、1985年(昭和60年)には酒造用具6,120点が京都市の有形民俗文化財に指定され(うち約400点を記念館に展示)、1987年(昭和62年)に会社が創業350年を迎えたのを機に一般公開が開始されています。
明治期に建造され昔ながらの情趣漂う酒蔵内には、職人が唄い継いできた酒造り唄が流れ、伏見の酒造りや日本酒の歴史文化を展示パネルなどで分かり易く紹介するほか、創業からの歴史を物語る数々の史料や市指定有形民俗文化財にも指定されているいにしえの酒造用具類の約400点の展示や、明治期の酒瓶や古いラベルなどの珍しい展示もあります。
更に見学後には吟醸酒やプラムワインなどの試飲やきき酒体験のほか、大倉記念館限定の日本酒などを購入することもでき、酒好きにはたまらない内容となっています。
また中庭を挟んで隣接する内蔵酒造場内の「月桂冠酒香房」では、現在も但馬流の杜氏が昔ながらの手法で酒を醸造していて、前日までに予約すればもろみ発酵の様子をガラス越しに見学することもできるといいます。
行事としては毎年3月の中旬または下旬頃に、伏見にある他と合わせて10の酒蔵によって同時開催される「蔵開き」が有名で、当日は同時開催イベントとして「伏見の清酒 新酒蔵出し日本酒まつり」も開催され、多くの来場者で賑わいます。
このうち月桂冠では「月桂冠 酒蔵まつり」と銘打って日本酒の有料試飲・即売、振る舞い甘酒・飲食屋台、酒造り唄の披露と鏡開き、更には記念館の無料開放・見学ツアーなども行われます。