「東山三十六峰(東山連峰)」の主峰の一つで、京都市左京区粟田口如意ヶ嶽町に山頂を有し、比叡山に次ぐ高さを誇る標高472mの山。
古来より信仰の対象とされた山で、山中にはかつて「如意寺(にょいじ)」と呼ばれる園城寺(三井寺)の末寺であった大規模な山岳寺院が存在していたといい、現在も山中には信仰の対象となる施設が多く、山名の由来も諸説あるもののその如意寺に由来したものだといいます。
ちなみにこのほかにも「諸社根元記」の中の「日神岩戸を出てさせたまひてその御光顕れ出てたりけるを、八百万神悦びて皆意のごとくなると宣ひしより如意山と名付く(天照大神が天の岩戸から出るやその御光により八百万の神は喜び皆意の如くなる)」が由来であるとするものがあるといいます。
そしてその如意ヶ嶽山頂の西側約1.3kmの所にあるのが標高465.4mの支峰(西峰)「大文字山(だいもんじやま)」で、毎年8月16日の夜に行われる伝統行事で、京都の夏の風物詩として有名な「五山の送り火」の「大文字」が点灯する山として知られています。
この点、如意ヶ嶽と大文字山は別の山であるものの混同されがちで、江戸時代の書物の中には如意ヶ嶽で送り火が行われるとか、元々は如意ヶ嶽であったが「大文字」の送り火が著名になり、大文字山と呼ばれるようになったとか、あるいは如意ヶ嶽の西側または中腹の俗称が大文字山であるともされてきましたが、大文字保存会では送り火を行う山は「大文字山」としているようです。
ちなみに如意ヶ嶽の山頂は京都市内からは全く見えず、南方面が開けているだけで琵琶湖や山科・醍醐山の眺望が良い一方、西側の大文字山からは山頂のやや手前にある「大」の字の火床から京都市街を一望することができ、その眺望は「京洛第一」との呼び名も高く、送り火が行われる五山のうち、他の4つの山を全て眺めることができるほか、天候が良ければ大阪の高層ビルも視認できるといいます。
一帯は緑豊かでレクリエーションの森(東山風景林)、第一種風致地区、大文字山歴史的風土保存地区、東山鳥獣保護区などに指定されているほか、銀閣寺から火床にかけては風致地区特別修景地域、また市内から火床を見て向かって左手の銀閣寺山または月待山を中心とする23.89haは銀閣寺山国有林となっています。
そして如意ヶ嶽・大文字山には様々なルートで登山道が整備されていて、このうち一番有名なのは銀閣寺の総門前から浄土院、八神社を経て行者の森のそばにある登山道入口から山頂を目指すルートで、ハイキングコースとしても人気なほか、市内の小学校の遠足などでも登られるなど、気軽に登れる山として親しまれているほか、「五山の送り火」の翌朝には消し炭を求めて山を登る多くの人で賑わいます。
また鹿ヶ谷の霊鑑寺や瑞光院(浪切不動)付近から山頂へと続くルートは池ノ谷地蔵を経て園城寺へ至る山道で「如意越(にょいごえ)」と呼ばれ、京都市左京区と滋賀県大津市の県境で京と近江の近道とされ、崇徳上皇や以仁王などが用いたゆかりがあるほか、如意ヶ嶽の戦いなど合戦の舞台になったことがあるほか、近江と京を結ぶ要衝として築かれた如意ヶ嶽城の城跡も残されています。
さらにもう一つ、南禅寺や蹴上の日向大神宮から山頂へと続くルートは、脇道が多いものの「京都一周トレイル」の東山ルートとなっていて道標が完備されており、安心してハイキングを楽しむことができるルートです。
これら京都側からの以上3つの登山道は大文字山東方にあり京都から見て裏手にあたる「四つ辻」でいったん合流し、東の三井寺・大津側のルートと結ばれています(西が鹿ヶ谷・霊鑑寺方面、北が大文字山・銀閣寺方面、南が南禅寺・蹴上方面、東が三井寺・大津方面)。
毎年8月16日に開催される「五山の送り火」で「大文字」が点火されることで有名ですが、この送り火は本来の盂蘭盆の「送り火」としての意味だけではなく、都の安寧や悪霊退散、家内安全や無病息災などを願う意味も込められているといい、伝統的・包括的な宗教行事として京都の人々に親しまれています。
「大」の字の面積は約7000坪あり、第一画の横棒を一文字といい80m、第二画の左払いは北流れといい、一文字より上に突き出した字頭部を含めて160m、第三画の右払いを南流れといい120mの長さがあるといいます。
そして火床の数は大の字中心より上が9、左が8、右が10、左払いが20、右払いが27あり、これに大の字中心の「金尾(かなわ)」を加えて合計で75あるといいます。
19時半頃に大の字中心の金尾にある弘法大師堂にて般若心経の読経が開始された後、20時に「大」の字の送り火が点火され、送り火はその後妙法、船形、左大文字、鳥居形と順々に点火されていきます。