京都府綴喜郡宇治田原町奥山田川上、京都市内から車で約1時間ほどの距離にある宇治茶の産地として知られる宇治田原町の東側、ともに修験道の霊場として知られ、大和の大峰山に対し「北大峰」と称される「鷲峰山」の麓に位置する。高野山真言宗の寺院。
山号は慈眼山(じげんざん)、本尊は十一面観世音。
その創建の詳しい経緯は安土桃山時代と江戸時代の2度の火災にて資料ともども焼失しているため分かっていないといいますが、今から約800年ほど前の平安時代または鎌倉時代の頃に奈良時代の717年(養老元年)に創建され現在は廃寺となっている飯尾山医王教寺の塔頭寺院として建立されたと伝えられているといい、資料として残されている限りでは1596年(慶長元年)に祐胤大徳(ゆういん ?-1614)によって再興されたといいます。
寺宝としては本尊・十一面観世音は町指定文化財で、半世紀に1度、50年に1回だけご開扉される秘仏だといいます。
また運慶とともに鎌倉期に活躍し、日本を代表する仏師の一人である快慶(かいけい)によって鎌倉初期に彫像されたと伝わる「不動明王坐像」を所蔵していることでも有名です。
快慶は有名な東大寺の南大門にある阿吽の金剛力士像(仁王像)の造営にも参加したことで知られてますが、その作例は「安阿弥様(あんなみよう)」と呼ばれる理知的、絵画的で繊細な作風によるものが多く、慈悲相の如来像を得意としたといい、そのような中で正寿院の像は力強く若々しく、眼が玉眼で左右の眼に動きがあるのが特徴で、憤怒相の明王像は珍しく大変貴重だといいます。
醍醐寺三宝院の弥勒菩薩坐像との類似性が指摘されている貴重な逸品であり、また東大寺、興福寺、法隆寺に次ぐ大寺で、天理市にあったとされ現存しない幻の大寺「内山永久寺」に関係する遺宝であるとされており、歴史上においても貴重な像として、国の重要文化財にも指定されていて、また毎月28日には「不動明王ご縁日」として護摩が修されています。
そして近年は天井を埋め尽くす160枚の天井画とともに客殿の「則天の間」に作られた「猪目窓(いのめまど)」と呼ばれるハートの形をした窓で注目を集めています。
「猪目(いのめ)」の文様は現代においてはハート型と呼ばれる形ですが、元々は古来から伝わる日本伝統文様の一つで、また仏教とも関わり深い伝統文様として約1400年前からお寺や神社の建築装飾として使用されているといいます。
そしてその形状には災いを除き福を招くという意味があるともいわれていて、そのハートの形にそっくりという形状から、幸せを呼ぶ窓として、とりわけ良縁祈願を願う女性の参拝客を中心にインターネットのSNSなどでも話題を集めています。
窓からは春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季折々の景色を望むことができ、また猪の目型をモチーフとした授与品や御朱印も人気を集めているといいます。
行事としては毎年夏の7月1日から9月18日まで開催される「風鈴まつり」が有名で、境内に吊るされた約2000個の風鈴は風が吹くたびに涼しげな音色を一斉に奏で、参拝者の目だけでなく耳でも涼を感じさせてくれ、夏の風物詩としてすっかり定着し、このことから「風鈴寺」とも呼ばれています。
その他にも寺では「数珠づくり」や「写経・写仏」の修行体験、庭を見ながらの「ヨガ」や「お茶会」など、様々な体験行事が催され、気軽に参加できるようになっています。