京都市北区上賀茂本山、世界遺産・上賀茂神社(賀茂別雷神社)より東へ約500mの地に位置する上賀茂神社の境外摂社(第三摂社)。
古くは「恩多社(おんたしゃ)」とも呼ばれていたといいます。
創祀の経緯は不明ですが、起源は上賀茂神社よりも古く、賀茂県主(かものあがたぬし)が当地に移住する以前に先住民によって祀られたという「上賀茂で最古の神社」といわれていますが、詳細ははっきりしていません。
しかし、平安時代に醍醐天皇の命により全国の神社の調査が行われ927年(延長5年)に成立した「延喜式」神名帳では、山城国愛宕郡に「太田神社(大田神社)」と記載され式内社に列しており、この頃には既に存在していたと考えられています。
本殿・拝殿ともに江戸初期の1628年(寛永5年)に建て替えられたもので、このうち拝殿は「割拝殿(わりはいでん)」と呼ばれる中央が吹き抜けになっており通ることができるようになっている古い形式のものですが、現存しているものは少なく珍しいといいます。
また本殿以外にも3つの末社があり、このうち2つ並んだ末社と本殿の間には、「大田の小径」と呼ばれる全長約750mの散策路が2005年(平成17年)に地域住民らによって整備されています。
しかし大田神社といえば、何といっても5月に見頃を迎える杜若(カキツバタ)の名所として有名です。
境内東側の沢池は「大田の沢」にある杜若(カキツバタ)の野生群落は1000年以上の歴史を持ち、「神山(こうやま)や 大田の沢の かきつばた ふかきたのみは 色にみゆらむ」と、平安後期の歌人・藤原俊成の上記の歌にも詠まれているなどすでに平安時代より有名であったといい、1939年(昭和14年)に国の天然記念物に指定されています。
ちょうど京都三大祭の一つである賀茂社の祭礼「葵祭」の時期と重なることもあり、5月上旬~中旬にかけての見頃の時期には、色鮮やかな濃い紫色をした美しい花を見ようと多くの参拝者で賑わいます。
ちなみに境内入口付近では、この時期に合わせて上賀茂神社敬神婦人会による上賀茂神社の門前名物として人気の「やきもちと湯茶」の接待奉仕も行われます。
また祭神の天鈿女命(あめのうずめのみこと)は天照大神(あまてらすおおみかみ)が天の岩戸に隠れたときに舞を舞ったことで知られ、「芸能上達」のご利益で信仰を集めているほか、健康長寿・縁結びのご利益でも知られています。
そしてこの健康長寿に関連して、同社では毎月10日の夜に「チャンポン神楽」とも呼ばれる「里神祭」が舞われることでも知られています。
「チャンポン・ポン・ポン」という音が鳴り響くことからこう呼ばれ、御鈴(みすず)を持ってくるくると回るという単調な形式ですが、神楽の日本最古の形を残しているといわれ、歴史的・芸術的にも価値を有するとして1987年(昭和62年)5月1日に京都市の「登録無形民族文化財」に指定されています(登録名は「大田神社の巫女神楽」)。
この他に境内には大きな紅葉の木もあり、木々が赤く染まる季節もおすすめです。