京都市東山区の鴨川の東側、四条通の南側から五条通までに南北に広がる花街「宮川町」にある歌舞練場。
正確には宮川町の花街は、東西は鴨川東岸の川端通の一筋東側、南北は四条大橋の一筋南にある団栗橋を東に入った所から五条通の一筋北、宮川筋二丁目から七丁目にかけての宮川町通沿いになります。
宮川町は四条大橋東詰にある「南座」にも近く、元々は江戸初期に「歌舞伎」の祖として有名な出雲の阿国をはじめ、数々の芝居小屋が建ち並ぶことにより、それに出演する役者や、観客のための旅籠や芝居茶屋として発展してきました。
名前の由来は四条大橋の下流で八坂神社の祭礼として有名な「祇園祭」の際に「神輿洗い」が行われることから「宮川」と名付けられたといわれています。
京町家の紅殻格子(べんがらごうし)の雰囲気ある町並みは1999年(平成11年)には「祇園町南歴史的景観保全修景地区」にも指定されており、また現在は若手の芸妓・舞妓が多く、活気のある花街として人気を集めています。
そもそも「舞妓(まいこ)・芸妓(げいこ)とは、唄や踊り、三味線などの芸で宴席に興を添えることを生業とする女性の事をいいます。
舞妓とは芸妓になる前の15~20歳くらいまでの見習い期間をいい、通常は舞妓として約5年間修行した後に芸妓になります。
ちなみに舞妓になるまでにも準備期間があり、これを「仕込み(しこみ)」といいます。
花街のしきたりや京ことばなどを約1年学んだ後に「店出し・見世出し(みせだし)」をして晴れて舞妓となります。
彼女たちはそれぞれが「置屋(おきや)」と呼ばれる家に所属し、そこから「お茶屋(おちゃや)」や「料亭(りょうてい)」へ送り出され、宴席で芸を披露します。
お茶屋と料亭の違いは料理を直接提供するか否かで、お茶屋は直接提供はせず、「仕出し屋(しだしや)」から取り寄せることになります。
そしてこれらのお茶屋や置屋などが集まって形成されているのが「花街(かがい)」です。
歌舞練場(かぶれんじょう)とは、京都の花街(かがい)にある劇場のことで、芸妓・舞妓たちが歌や舞踊、楽器などの稽古をする練習場であると同時に、その発表のための場所でもあります。
現在京都には祇園甲部(ぎおんこうぶ)・先斗町(ぽんとちょう)・宮川町(みやがわちょう)・上七軒(かみしちけん)・祇園東(ぎおんひがし)のいわゆる「五花街」が現存しており、それぞれが専用の歌舞練場を持っています。
そして各花街は春と秋にそれぞれの歌舞練場を舞台に舞踊公演を行っており(祇園東のみ秋だけの公演)、芸妓・舞妓たちにとってはお茶屋や料亭・旅館などでのお座敷接待以外の主要な活動の一つとなっています。
またその他にも五花街の合同公演として6月下旬に行われる「都の賑い」も主要な舞踊公演の一つです。
ちなみにこれらの舞踊公演以外にも古くより花街に伝わる伝統行事がいくつかあり、五花街に共通したものとしては、正装の黒紋付に縁起物の稲穂のかんざしをつけて新年の挨拶を行う1月7日の「始業式(しぎょうしき)」(上七軒のみ1月9日)や、日頃お世話になっている師匠やお茶屋に感謝の気持ちを伝える8月1日の「八朔(はっさく)」、12月初旬の南座の歌舞伎の顔見世興行に芸舞妓が揃って観劇する「顔見世総見(かおみせそうけん)」、そして一年のお礼と新年に向けた挨拶をする12月13日の「事始め(ことはじめ)」は有名です。
その他にも祇園祭の花傘巡行や時代祭などの京都を代表する行事のみならず、各花街独自に参加する伝統行事も多数あり、また近年はメディアへの露出や京都市などが開催する各種イベントなどに参加する機会も増えるなど、京都の観光のシンボルとして重要な役割を果たしています。
「宮川町歌舞練場」は「宮川町」の芸舞妓たちが拠点とし、春に「京おどり」、秋に「みずゑ会」と呼ばれる舞踊公演を行う会場となっています。
歌舞練場自体は古くよりありましたが、現在の歌舞練場が建築されたのは1916年(大正5年)のことです。
「京おどり」が始まったのは戦後の1950年(昭和25年)のことで、京都の名所名物を舞踊化して好評を集め、年中行事として現在も続いています。舞踊の流派は現在は「若柳流」です。
当初は宮川町歌舞練場で行われていましたが、阪急京都線の延長工事のため、1954年(昭和29年)の第5回から1968年までは舞台を「南座」に移して上演されています。
そして1968年(昭和43年)、舞妓・芸妓のための教育施設である「東山女子技芸学校」が設立され、翌1969年(昭和44年)には学校法人の認可も受けて「東山女子学園」となると、歌舞練場も玄関ホールなどが増改築された新しいものが完成し、以後は「京おどり」の会場として使用されるようになりました。
また2006年(平成18年)、歌舞練場の改築工事などで1971年より休演されていた「みずゑ会」が35年ぶりに復活し、現在は春に「京おどり」、秋に「みずゑ会」が開催されるようになっています。