京都市北区西賀茂、神光院の西、正伝寺の南に位置し「五山の送り火」の一つである船形が灯される舟山の麓にある浄土宗の寺院。山号は来迎山(らいごうざん)。
平安初期の承和年間(834-48)に慈覚大師円仁(えんにん)によって開創されたと伝わり、元は天台宗山門派に属していましたが、鎌倉後期の正和年間(1312-16)に道空(どうくう)によって再興され浄土宗の寺となりました。
現在は京都の夏の風物詩として知られる8月16日の「五山送り火」において、標高315mの妙見山に灯される「船形万燈籠(ふながたまんとうろう)」の維持管理を保存会とともに行っていることで知られています。
また寺を中興した道空は六斎念仏を広めたといわれる人物で、送り火の点火後には境内で「西方寺六斎念仏」が奉納されます。
ちなみに西方寺の六斎念仏は、能や狂言などを取り入れておらず、鉦や太鼓を使って念仏を唱える極めて古い様式のもので、干菜寺系六斎念仏を引き継いでおり、六斎念仏の古態を今に伝えるものとして重要無形民俗文化財にも指定されています。
この他に境内には皇室制度や神道史の研究家として知られるイギリス人・リチャード・ポンソンビーの碑が建てられているほか、背後の小谷墓地には、幕末の歌人太田垣蓮月尼(おおたがきれんげつに)や上賀茂神社の祠官・賀茂季鷹(かものすえたか)、また著名な料理人で陶芸家でもある、北大路魯山人の墓もあります。
境内はそれほど広くありませんが、手入れが行き届いており、11月中旬~下旬は美しい紅葉を楽しむことができます。
ちなみに西方寺という名は京都市内に他にもあるほか、同じ読み方をする寺として世界遺産にも指定され「苔寺」として知られる「西芳寺」があるので注意が必要です。