京都市左京区鹿ケ谷宮ノ前町、桜の名所としても知られる有名な観光スポット「哲学の道」と並行して流れる琵琶湖疎水上に架かる小さな「大豊橋」を渡って東側に鎮座する神社。
鹿ケ谷・南禅寺一帯の氏神、産土神(うぶすながみ)であり、治病健康、福徳長寿、学業成就、縁結び、子授け安産などのご神徳で知られています。
社伝によると、平安初期の887年(仁和3年)に第59代・宇多天皇(在位887-97)の病気平癒を願い、その養母でもあった女官・藤原淑子が勅命を奉じて創建したと伝わっています。
この点、藤原淑子(ふじわらのしゅくし(よしこ))は平安前期の女官で贈正一位尚侍。
838年(承和5年)に藤原長良(ながら)を父として生まれ、宇多天皇の養母となり、その即位にも深く関わったとされる人物です。
創建当初は医薬の祖とされる少彦名命(スクナヒコナノミコト)を祀り、現在は背後にそびえる東山三十六峰の15番目にあたる「椿ヶ峰」の山中に鎮座し「椿峰山天神(ちんぽうざんてんじん)」と呼ばれていましたが、その後、寛仁年間(1017-21)に現在地へ移された後、応神天皇と菅原道真が合祀され現在に至っています。
かつては広大な神社であったと伝わるものの、度々の火災で現在は本殿と拝殿、それに末社を残すのみですが、近年は境内にいくつかある末社に姿が見られる愛らしい動物の神使が人気を集めています。
まず本殿に向って右にある縁結びの神として知られる大国主命(おおくにぬしのみこと)を祀る「大国社(だいこくしゃ)」を守護しているのが、狛犬ならぬ「狛鼠(ねずみ)」。
大国主命が山火事に遭遇し野火に囲まれ窮地に陥っている時にネズミが現れ、洞穴に導いて匿って命を救ったという「古事記」の記述にちなんだもので、全国にある約8万社の神社のうち、狛ネズミがあるのはここだけだといい、その愛らしい姿で「ねずみの社」として人気を集め、全国より多くの参拝者が訪れています。
この点、1969年(昭和44年)に作られたものでその歴史はまだ浅いものの、12年に一度訪れるねずみ年(子年)の正月にはテレビや新聞でも取り上げられ、多くの初詣客でごった返すようになっています。
ちなみに向かって右のネズミは雄で、学問を象徴する巻物を持ち学業成就のご利益、他方、反対側の左のネズミは雌で、万物の根源である水玉を抱え、あるいはお神酒を抱えているとか、子宝をはぐくんでいるという説もあり、無病息災のご利益があるとされています。
その他にも末社としては、火伏せの「愛宕社」には「狛鳶(とび)」、鬼門除けの「日吉社」には「狛猿」、商売繁昌の「美田稲荷社」には狛狐(きつね)と、それぞれの末社でゆかりある神使いが社を守護しています。
また花の名所としても知られ、本殿前にある枝垂紅梅は洛中一ともいわれ、椿ヶ峯の名前の名残りか様々な色・品種があるという椿も京都でも有数の名所として知られているほか、三の鳥居の横に咲く染井吉野の桜などが有名です。