京都市上京区智恵光院通上立売上ル聖天町にある古義真言宗の寺院。
山号は北向山(ほっこうさん)で、本尊として歓喜天(かんぎてん)(聖天)を祀ることから「西陣の聖天さん」の通称で親しまれています。
また弘法大師空海を開基とすることから「弘法大師二十一ヵ所巡り」の一つにも数えられています。
平安初期の821年(弘仁12年)、弘法大師空海が嵯峨天皇の病気平癒のため、玉体と等身大の歓喜天(聖天)像を一刀三礼して造り祈願し、その功績によって空海が天皇の別荘であった時雨亭を賜り、雨宝堂(大聖歓喜寺(だいしょうかんきじ))としたのがはじまりとされています。
元々は千本五辻にあり、東寺とともに皇城鎮護の寺として栄え大伽藍を有していたといいますが、1467~77年の「応仁の兵」の兵火によって堂宇は荒廃。
その後、天正年間(1573-92年)の再興を経て、現在の建物は1788年(天明8年)の「天明の大火」での焼失後に再々興されたものです。
ちなみに「聖天」とはは仏教の守護神である天部(毘沙門天・帝釈天・吉祥天などの天界に住む神々の総称)の一つである「歓喜天」の別名で、正式には「大聖歓喜大自在天(だいしょうかんぎだいじざいてん)」。
原型は古代インド神話において最高神・シヴァ神の息子で象を神格した「ガネーシャ神」と言われ、ガネーシャ神は元々は障害を司る神で人々の事業を妨害する魔王として恐れられる存在でしたが、やがて障害を除いて幸福をもたらす神として広く信仰されるようになりました。
ヒンドゥー教から仏教に取り入れられる際にも悪神が十一面観世音菩薩によって善神に改心し、仏教を守護し財運と福運をもたらす天部の神となり、日本各地の寺院で祀られるようになりました。
象頭人身(頭が象で体は人間)の姿で単身像と双身像があり、このうち双身像は男天と女天が相抱擁している姿で、夫婦和合・安産・子授けの神様として信仰されています。
そしてそんな聖天さんのシンボルとなっており、聖天を祀る寺院の境内で意匠としてよく見かけるのが「巾着袋」と「大根」ですが、大根は夫婦和合や縁結び、巾着は砂金袋(宝袋)で商売繁盛のご利益を現わしているといいます。
またその姿を見ると良くないことが起きるという言い伝えもあり、一般的にはその姿は簡単に見ることが出来ないよう多くは厨子などに安置され、秘仏として扱われており一般に公開されることは多くないといいます。
そして「百味供養」といわれるようにたくさんの供物をささげると多くのご利益が得られるともいわれ、平時より供物は欠かさず、また御縁日である毎月1日と16日には特別な供物が供えられるといいます。
中でも歓喜天の好物として有名なのが聖天さんのシンボルとして知られる「大根」であり、また仏教と共に遣唐使が中国から伝えて以来千年の昔より形を変えずに伝えられているという「歓喜団(かんきてん)」というお菓子だといいます。
なお歓喜天が祀られている寺院は「○○聖天」と通称されることが多く、京都府内では京都市上京区の雨宝院(西陣聖天)の他にも京都市東山区の香雪院(東山聖天)、京都市山科区の双林院(山科聖天)、乙訓郡大山崎町の観音寺(山崎聖天)、木津川市の光明山聖法院(銭司聖天)があります。
この点、雨宝院(西陣聖天)の本堂に安置する本尊・聖天(歓喜天)像は、空海が嵯峨天皇の御病平癒祈願に一刀三礼して造られたと伝わる像頭人身六臂の等身像で、商売繁盛の神様としても信仰され、商売人の参拝者が多いといいます。
また観音堂に安置されている漆箔の木造・千手観音立像は平安初期の作とされていて国の重要文化財に指定されているほか、大師堂には胎蔵界を表わし、汗をかくほど辛いことでも助けてくれるという「阿吽あせかき弘法大師像」を本尊として安置しています。
この他にも境内東南には「千代井」「桜井」「安居井」「鹿子井」とともに西陣五名水の一つに数えられ、夏の干ばつ時でも涸れることがなく湧くという「染殿井(そめどののい)」があり、この井戸の水で染物を染めると染まりがよいといわれることから以前は西陣の染物関係者が水を汲みに来ていましたが、現在は清めの手水として使われています。
また本堂前、歓喜桜の隣にある「時雨の松(しぐれ)」は、久邇宮朝彦親王(くにのみやあさひこ 1824-91)が当院参詣の折、その下でにわか雨をしのいだと伝えられている松です。
現在は隠れた桜の名所として有名で、境内には多くの種類の桜の木があり、春は長い期間桜を楽しむことができます。
境内は決して広くはないものの、12本の桜が密集しており、天を覆うようにして多種多様の桜が花を咲かせる光景は圧巻です。
本堂前の「歓喜桜(かんきざくら)」は、根元から八重の花を咲かせる仁和寺の御室桜と同種の八重桜で、また「観音桜」も同じ「御室有明」といわれています。
他にも紅枝垂れ桜や松月桜などがあるほか、山門近くにあるのが古くから知られた「御衣黄桜(ぎょいこうざくら)」で、遅咲きの八重桜で大変珍しい薄緑色の花を咲かせます。