京都市北区上賀茂、京都盆地の北、北・東・南の三方を松ヶ崎丘陵に囲まれたその南麓(なんろく)にある池。
古くは美土呂池、美度呂池、御菩薩池、泥濘池、「今昔物語集」では美々度呂池など、様々な表記があります。
水深2メートル内外の浅い池ですが、池底には堆積した3~4mに及ぶ泥土層があり、「深泥池」の名はこれに由来しているといいます。
また周囲1.5km、面積9haの小さな池ですが、市街地に接する場所に位置しているにもかかわらず、氷河期以来の貴重な動植物が今も数多く生き続けることで知られています。
これは池の水は池に降る雨と周囲からの地下水といった栄養分の乏しい「貧栄養」の水で賄われており、酸性度が強く、普通の動植物にとっては厳しい生存環境にあることから、環境に強い動植物だけが残り生き続けることができたためでした。
そしてその池の中央には西日本の平坦地では珍しい浮島が、池全体の1/3の面積を占めるようにして浮かんでおり、池の植物や小動物たちが育つのに重要な役割を果たしているといいます。
このような環境の中で生き続けてきたホロムイソウなどの氷河期以来の貴重な水生植物群落を保護するため、1927年(昭和2年)には「国の天然記念物」に指定されており、また1988年(昭和63年)には、その対象が生物群集全体にまで広げられています。
この点、平安時代には水禽を狩る遊猟池であったといい、以降も独特のぬめりと風味の良さがあるジュンサイが育つ池として、灌漑用のため池として、また近代まで池周辺の森は焚き付け用の枝や落ち葉を採取する場として、この池は人々の生活に密接なかかわりを持ってきました。
天然記念物に指定されている現在も多くの水生植物や甲殻類、昆虫類、魚や野鳥などが生息することから、自然観察のスポットとして親しまれています。
また四季折々の草花も楽しむことができ、4月にはミツガシワの白い花、5月に白や青のカキツバタやアヤメ、赤色のトキソウ、9月にはサワギキョウの青色の花が咲き競うほか、独特のぬめりで知られるジュンサイも多く見られ、6・7月には暗紅紫色の花を咲かせますが、天然記念物に指定されているため採取は禁止されています。
この他にも「幽霊が出る池」として紹介されることもある心霊スポットの一つとしても知られている深泥池ですが、近年に入り池の西と北側の開発、浄水場からの水道水の流入、ゴミや外来植物(水草など)の放棄、他地域で捕獲した魚の放流などにより、生態バランスの急速な崩れが問題になってきており、各市民団体の活動により、外来魚の駆除や外来植物の除去など、池の環境保全のための様々な努力が続けられています。
周辺環境としては、池の西側を鞍馬街道が通っており、古くは「梁塵秘抄」に「いづれか貴船へ参る道 賀茂川箕里(みのさと) 御菩薩池…」と歌われたほか、池の畔には京の主要な街道の六口に祀られた六地蔵の一つ「深泥池地蔵」が安置されていましたが、現在は鞍馬口の上善寺に移されています。
また深泥池のすぐ近くにある「深泥池貴船神社」は正式には貴舩神社といい、鞍馬山麓の貴船に鎮座する貴船神社の分社の一つです。
本宮への参詣が遠くて大変だったことから、江戸初期の寛文年間(1660-70)に地元の農民が祭神を勧請し、当地に分社として建立したのがはじまりとされ、農業に欠かせない雨水を司る龍神でもある高 神(たかおかみのかみ)を祀り、農耕をはじめ、地域住民の安寧、除災招福の守護神として信仰を集めています。