京都府八幡市八幡高坊、京阪石清水八幡宮からすぐの石清水八幡宮の表参道の一ノ鳥居前に店を構える老舗の和菓子店。
主力商品は八幡名物として知られる「走井餅(はしりいもち)」。
江戸中期の1764年(明和元年)に初代の井口市郎右衛門正勝が滋賀県の大津で創業し、万葉の頃、第13代・成務天皇(せいむてんのう)の産湯にも用いられたと伝わるほどの名高い名水であった「走井」を使って餡餅を作ったのがはじまり。
その名水を用いて作ったことから走井餅と命名され、また刀の荒身を模した独特の形は、平安時代に名を馳せた刀鍛冶・三條小鍛冶宗近が走井の名水で剣を鍛えたという故事にちなみ、剣難を逃れ、開運出世の縁起を担いだものと伝えられています。
安藤広重「東海道五十三次」の最後の宿場・大津宿にも描かれるなど、元々は東海道の宿場町・大津の名物として知られ、その後明治時代には明治天皇へも献上されるなど、大津名物として大津で150年親しまれました。
しかし1910年(明治43年)に第6代・井口市郎右衛門の四男・嘉四郎が名水で名高い八幡・石清水の男山の麓に店を構えると、程なくして大津の本家は廃業し、昔ながらの製法で伝統の味を継承した当家が直系唯一の走井餅となります。
そして八幡へ移ってからも石清水八幡宮の参拝に欠かせない門前名物となり、また昭和天皇へ献上されるなど歴史を積み重ね、大津に創業して以来250年の歴史と伝統を守り続けています。
走井餅は上品な甘さのこし餡を絹のようなやわらかさの薄皮でたっぷりと包んだ細長い羽二重餅で、店内の喫茶では抹茶や煎茶とセットで味わえるほか、お土産としてテイクアウトも可能。また石清水八幡宮で行事がある時などは男山山上の境内の一角でも販売されています。
また走井餅以外にも夏季限定かき氷や、冷やしぜんざい、ういろうなどの商品も販売され、特にういろうはお土産として人気があるようです。
なお井口家の生家である大津の茶屋旧跡は1915年(大正4年)に日本画家の橋本関雪(1883-1945)が別荘「走井居」として購入した後、関雪の没後は臨済宗系の単立寺院「月心寺(げっしんじ)」となり現在に至っています。
走井餅発祥のその地には、山門をくぐると今でもこんこんと「走井」の名水が湧き続けているといいます。